筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(Myalgic Encephalomyelitis / Chronic Fatigue Syndrome:ME/CFS)

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以前にまとめたものの再掲+追記しています。

目次

参考文献

①日本語のホームページで一番まとまっているのはこちら

国際ME/CFS学会が発行した“Primer for Clinical Practitioners 2014 edition”の日本語翻訳あり。

②その後に出ている文献でまとまっているもの

商業誌ではこちら

総合診療 2020年 7月号 特集 その倦怠感、単なる「疲れ」じゃないですよ! 筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群とミミック | 片岡 仁美 |本 | 通販 | Amazon

④ ①のグループからの本

専門医が教える 筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)診療の手引き【電子版付】 | 倉恒弘彦(一般社団法人日本疲労学会 理事)/松本美富士(一般社団法人日本線維筋痛症学会 理事)編著 |本 | 通販 | Amazon

⑤患者体験について(③にも転載あり)

Amazon.co.jp: ある日突然、慢性疲労症候群になりました。 eBook : ゆらり, 倉恒弘彦: 本

[ゆらり, 倉恒弘彦]のある日突然、慢性疲労症候群になりました。

⑥UpToDateにも記事あり

・Clinical features and diagnosis of myalgic encephalomyelitis/chronic fatigue syndrome

・Treatment of myalgic encephalomyelitis/chronic fatigue syndrome

⑦(追記)NPO法人筋痛性脳脊髄炎の会の小冊子

症状・診断基準

米国医学研究所(Institute of Medicine:IOM)(現 National Academy of Science)が2015年にME/CFSの枠組みを広げて全身性労作不耐疾患(Systemic Exertion Intolerance disease:SEID)を提唱した。その定義は下記。

○以下の症状が全てある

1. 職業的、教育的、社会的、または個人的な活動において、発病前のレベルに従事する能力の大幅な低下または障害が6ヶ月以上持続し、疲労を伴い、その疲労はしばしば深刻で、ある時点から新規に発症したもので(生涯続くものではない)、継続した過労の結果ではなく、休息によっても大幅に緩和されないこと。

2. 労作後の倦怠感:発病前には普通に耐えられた身体的または認知的ストレス要因にさらされた後に、患者の症状および機能が悪化すること。
3. 爽快感のない睡眠

○以下のうちいずれかがある

4. 認知機能障害:労作、努力、またはストレスや時間的プレッシャーによって悪化する思考または実行機能の問題。
5. 起立性不耐症:直立した姿勢をとると症状が悪化する。仰向けになったり、足を上げたりすると症状が改善されるが、必ずしも解消されない。

〜UpToDateより〜

ただこの基準は診断基準としての特異度が低く、除外基準が記載されていないため、多くの精神疾患がSEID基準に含まれてしまうなど、いくつかの問題点も指摘されている。

そこで日本医療研究開発機構(AMED)障害者対策総合研究開発事業、神経・筋疾患分野「慢性疲労症候群に対する治療法の開発と治療ガイドラインの作成」研究班によって以下の基準案が作成された。

上記のほか、鉄欠乏症(貧血はなくても)、マイコプラズマ感染症、慢性溶連菌感染症などもミミックとして挙げられていた(③)

6ヶ月以上とあるが、診断のために6ヶ月待つ必要はなく、除外診断を行い可能性が高い場合は専門施設へ紹介してよい(③に診断アルゴリズムあり)。

病態

最近、脳内で炎症がおきると、脳内免疫防御を担っているミクログリア細胞が活性化し、末梢性ベンゾジアゼピン受容体と呼ばれる分子を発現することが明らかとなり、positron emission tomography (PET)を用いて活性型ミクログリアの有無を検査することにより、脳内神経炎症の存在を直接調べることが可能となってきた。

CFS患者群では左視床、中脳、橋においてPK11195結合が有意に高い(つまりミクログリアが活性化されている)ことを日本の研究班が世界で初めて見出した。

被験者となられたCFS患者における頭部CT検査やMRI検査では異常がみられておらず、通常の保険診療で異常がみられないCFS患者でも、脳内の神経炎症が存在している可能性が高い。さらに、各自覚症状とPK11195結合の関連がみられる部位を調べたところ、視床、中脳、扁桃体での炎症が強い場合は認知機能障害が強く、帯状回や視床の炎症の強さと頭痛や筋肉痛などの痛みの程度に相関がみられ、海馬での炎症が強いほど抑うつ症状が強いことも判明した。

ただし、この核種は半減期が非常に短く、一般の検査施設では行うことが困難である。

同様に他覚的な異常を指摘できない身体機能の異常をまとめて機能性身体症候群(functional somatic syndrome:FSS)と呼ぶが、同じような機序が起こっている可能性がある。

村上正人, 金外淑. II. 線維筋痛症. 日本内科学会雑誌. 2019 Oct 10;108(10):2077-87.

コロナ後遺症のBrain fogと呼ばれる現象もここに入ってくるかもしれない。

治療

確立されたものはない。

③には漢方薬の選択について詳しく書いてある。

陽性症状が主であれば少陽病期として柴胡剤を(ただし瞑眩に注意)、主でない場合は気血水に応じて。

UpToDateでは

・管理は、睡眠障害、痛み、うつ病や不安、記憶力や集中力の低下、めまいやふらつきなど、よくある症状や併存する疾患の治療に重点を置き、支持的に行う必要があります。

・体を動かすことで、疲労やその他の症状、身体 機能が改善される場合があるため、CFS患者にとっては、体を動かすことが重要である。しかし、運動は、肉体的/精神的労 働の後に症状が悪化する労作後倦怠感(PEM)を悪化させる場合がある。PEMを最小限に抑えるために、臨床医と患者は、耐えられる活動の度合いに関する患者個人の限界を決定する必要がある。

・CFS の治療法として、多くの薬物療法、食事療法、 行動療法が検討されている。多くの治療法は、有効でないことが確認されている。しかし、その他の治療法については、その有効性が不明であり、個別に検討する必要がある。

※有効でない:アシクロビル、抗菌薬、anakinra(IL-1阻害薬)、ガランタミン、ステロイド、免疫グロブリン、メチルフェニデート、Modafinil、Rintatolimod、リツキシマブ、アマンタジン、シメチジン、インターフェロン、マグネシウム、ビタミンB12、ウシまたはブタの肝臓エキス、透析可能白血球エキス、必須脂肪酸、月見草オイル、バイオブランMGN-3(ナチュラルキラー細胞刺激剤)、除去食、歯の詰め物の除去など。

※認知行動療法、段階的運動療法は賛否両論

・CFSにおける短期的な機能回復の予後は、一般に悪いとされている。長期的な予後は、相反する研究結果があるものの、より良好であるように思われる。

③には心理療法についても記載がある。

あとはTwitterで患者さんの体験談を読んでみるのも参考になる。

社会的な側面

野島那津子. 「論争中の病」 の表象の変遷: 筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群に関する NHK のテレビ番組の分析から. 年報人間科学. 2019 Mar 31;40:87-103.

<要旨>
本稿の目的は、「論争中の病」の代表格とされる筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)に関するNHKのテレビ番組を分析し、ME/CFSがどのようなものとして伝えられてきたか、その病気表象の変遷を明らかにすることにある。
分析の結果、ME/CFSは、(1)1990年代には、「女性の弱さ」や「女性の社会進出の代償」として、(2)2000~2010年代前半には、仕事や学校生活でストレスを抱えるすべての「現代人」がかかり得る「現代病」として、そして、(3)2015年には、研究・支援されるべき深刻な「難病」として呈示されていた。
こうしたME/CFSの病気表象の変遷は、「異常」の可視化と病気の「脱女性化」という特徴を有している。当初、ストレスや生活に対する女性の心持ちの問題とされていた症状は、次第に「異常」を示すさまざまなデータによって可視化されていった。とりわけ2000年代以降は、患者の脳画像を用いてME/CFSの症状を「脳の機能異常」として説明することが定型化した。また、「異常」の可視化と並行して、当初女性に「特有」の問題とされていたME/CFSは、誰もがかかり得る病気として「脱女性化」されていった。この「異常」の可視化と病気の「脱女性化」は、ME/CFSの表象が深刻な「難病」へと変容することに寄与したと思われる。

今回「慢性疲労症候群」というキーワードで検索をかけると多くの自治体ホームページがヒットした。難病としての認識の確立が伺える。

支援ネットワークも立ち上がっている。

(追記)診断書の作成

現行の枠組みでは、ME/CFS患者への公的サポートは乏しいです。

そんな中でも、なんとか身体障害手帳をとれないかと工夫している先生がおられるようです。
やり方はこちらに書いてあり、僕も参考にして一例記載しているところです。

難しいのは、身体障害の基準は「恒久的な障害」を前提としているため、ME/CFSのように日による変動が著しい状態をうまく評価しづらいことです。上記の例では「握力低下」がはっきりとあったのでそれを軸にして記載しています。が、通るかどうかはまだわかりません。

認定がおりるかどうかは自治体にもよるかもしれませんが、おりることで障害者雇用に切り替えられるなどのメリットがあるようです。

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